冬に向けて、主人が玄関の前にテラスを作ると言って、
土台に使う砂をタダで工事現場の人に頼んで分けてもらった。
もらった砂は家の前の塀のそばに2メートルほどの山になって置かれた。
主人がテラスを作るのに費やせる日は週末だけだから、
その砂の山は何週間か塀のそばに置かれたままになった。
ただ置かれていると思われても困るので、砂山の周りをダンボール箱を開いて覆った。
それでも週末に郊外の家へ戻ってくると、2メートルの砂山は上から少しずつなくなって、
2週間後には半分になった。
誰かがこっそり取っていくのは塀の外だから仕方のないことだが、
主人がテラスに使う分まで持っていかれると困る。
そんな心配をしていたある日。
市場へ買い物に、車で出かけた。
出かけ際に、リヤカーに大きなバケツを2つ乗せたおじさんを見かけた。
「怪しい」と思っていたら、塀のそばにある砂山にリヤカーを止めて、
砂山の周りを囲っているダンボール紙をのけ始めた。
「あ〜やっぱり!砂を盗んでるじゃない!」
主人に言って車を止めた。
主人は窓を開けてそのおじさんに尋ねた。
主人: 「あなたはどこから来たのですか?」
おじさん:「ここからですよ。」
キョトンとして、おじさんは私たちに微笑みながら答えた。
主人: 「ここからって、どこから?」
おじさん: 「ここからです。」
主人: 「じゃお隣さんですか?私たちはここの者ですよ。」
おじさんはやっとわかったらしく、
「僕は〜・・・ここの地域ですよ。」 と言い出した。
主人が砂山は自分がここに置いたものだと言うと。
「それなら『盗るな』と書いておかなくちゃ。」と、悪びれもせずに笑顔で言う。
そのうえ自分が地質学を学んだこと、今は電気工として仕事をしているから、
「何かあったら声をかけてね。」と親しげに言う。
こうゆう人は「砂を持っていくな」ときつく言ったって、
後でまたこっそり来て持っていくだろう。
主人もそう思ったのだろう。
「わかった。わかった。あんまり沢山持っていかないでくれよ。僕が使う分がなくなっちゃうから。」
と主人は笑いながら答えた。
私が、
「お名前は?こんな機会にお知り合いになったんですから、教えてくださいな。」
と訊くと、
にっこり笑って、
「ニコライです。」と答えた。
主人はおじさんと握手をし、砂山におじさんを残して私たちは買い物へと出かけた。
買い物から戻って、また砂山を見に行くと、まだ半分は残っていた。
ニコライさん、残しておいてくれたんだ。
何だか可笑しな出来事だった。
ロシアでは、たぶんこんな風に知り合いが増えていくのだろうと思った。