ぶか~しゅか の ひとり言 (from:モスクワ)

ロシアは日本人にとっては知らないことが多い国。日本の考え方は100パーセント通じない国。でも見かたを変えれば、面白いことも多い国。ロシア人のなかで暮らす日本人の私が、見て感じたロシアをそのままに書いてみたいと思います。

モスクワ郊外にて

まだ私たちに車がなかった頃、

私と主人はモスクワ郊外の家まで電車に乗って行った。

あの頃の郊外へ行く電車は、クッションの付いていないベンチのような

硬い木でできた向かい合わせの座席で、

秋から冬の季節には、

車両にいたるところから隙間風が入るので私はひどく凍えた。

 

昼の早い時間に電車に乗ると、各駅ごとに小物を売る物売りがやってきて、

いろいろな品物を独特の口調で宣伝しながら各車両をまわっていた。

私はそれらの品物と、物売りの宣伝文句を注意しながら見て聞いて楽しんだものだ。

 

郊外へ行く電車には、アコーデオンやギターを弾きながらお金をもらう人々、

あるいは自分の置かれた境遇を

悲しそうに説明しながらお金をもらおうとする人々がまわってきた。

「外国人はケチが多い。」

と小声で罵られながら、私はその様々な人生模様を想像し、感じることができた。

 

あの頃の電車のチケットは、そんなに高くなかったように思う。

けれど多くの人々は、チケットを買わずに乗っていたようだ。

 

なぜなら、ある駅が近づくと、

前の車両から人々が次々に後ろの車両へ移動してきて、

その人々が後方の車両へ去った後に、

検札がやってきてチケットを持っているかどうか調べて回った。

検札が後方の車両へ行く頃には、

電車が止まった駅のホームを

後方の車両から一目散に前の車両へ駆けていく人々を見ることができた。

 

また電車を待つホームでは、

どこからか柵を乗り越えてホームへ入ってくる人を度々見かけた。

 

そして何より驚いたのは、電車が走り出す寸前に、

子供たちが電車の最後方へ飛びついて、車両に素手でつかまって乗っていく姿を見たときだ。

「なんて危ないことをしてるのかしら!」

と主人に叫ぶと、

 

「乗っているときより、降りるときの方が危ないんだ。

  電車が速度を落としたときに、ゆっくりと歩くように降りないと足を折ることがあるんだよ。」

 

主人は穏やかな口調で、なぜか薄笑いを浮かべながら答えた。

 

私たちが車でモスクワ郊外へ行くようになってからは、

冬に凍えることもなく便利だが、

私にとってのロシアでの新しい発見が少なくなってしまったようで、少し寂しい。

f:id:bukaashuka:20140523072529j:plain