ぶか~しゅか の ひとり言 (from:モスクワ)

ロシアは日本人にとっては知らないことが多い国。日本の考え方は100パーセント通じない国。でも見かたを変えれば、面白いことも多い国。ロシア人のなかで暮らす日本人の私が、見て感じたロシアをそのままに書いてみたいと思います。

私の週末の楽しみ

週末にモスクワ郊外へ行くと、必ずやることがある。


それは、
駅前の道路脇に立って、アイスクリームを食べながら道行く人々を観察すること。
この歳になっては、日本では出来ないことだ。


目の前の道行く人の観察は、
主人との生活にあまりにも慣れてしまった私に
異国の地で暮らしていることを改めて感じさせてくれる。
そしてロシアのアイスクリームは脂肪分100パーセント以上(?)で、
こってりとして美味しいから、
ちびりちびりとそれをなめながら、人々を観察するのはなんとも楽しい。


夏の週末、モスクワ郊外には都会から避暑に来る人たちが集まる。
そしてその人達のもとで別荘のリフォームをする中央アジアの人々、
小さなお店で野菜や果物を売るアゼルバイジャンやタタール、ウズベキスタンの人々。
様々な言語とそれぞれのジェスチャーは、映画を見ているようで面白い。


先週の週末、
私は大好きなアイスクリームを食べながら通りに立って、
主人の買い物が終わるのを待っていた。
私の向かいには男物の洋服を売るロシア人のおじさんが
道端に大きなテーブルを置いて、沢山品物を並べていた。
こうゆうところで売られている品物は中国製やベトナム製が多く、
ちょっとした仕事着やTシャツ、靴下やパンツ、靴やサンダルまで売られている。
そこへ、タジキスタン人のおじさんが中学生ぐらいの男の子と2人で通りかかり、
売っているおじさんの着ている売り物のジャケットに興味を示しだした。


売り手のおじさんは早速自分の着ているジャケットの良さを説明し出し、
いろんなところについているポケットの位置を示しながら、その便利さを強調した。
タジキスタン人のおじさんは男の子に自分のカバンを持たせ、試着を始めた。


着心地は良いようだ。
しかし、大きさが気になるらしい。
大きさが気になる・・・ということは、傍目にどう見えるのか気になるのだろう。
「鏡がないか?」と訊いている。
道端で売っているおじさんに鏡があるはずはないが、
売り手のおじさんは臆することなく隣の店のガラスに姿を映して見るように勧めた。


タジキスタン人のおじさんは、店のガラス窓に映る自分の姿を見ながらも、
なかなか決心がつかないようだった。


そこへ、買い物帰りでほろ酔い気分の太ったロシア人のおじさんが通りかかった。


タジキスタン人のおじさんが、
身体をくねらせながら店の窓に映る自分の姿に見入っていることに気づくと、
太ったおじさんは突然大きな声で叫んだ。


「なに悩んでんだよ!似合ってるよ!いけてるよ!ほら、ぼっ!」


最後の「ぼっ!」というところで、おじさんは親指を立てて見せた。
これは英語で言えばGood! 日本語で言えばグ〜!ってことだ。


「ぼっ」というのはロシア語で「たいしたもの」とか「すごい」ということを意味する。
親指を立てて「ぼっ!」ってことは「すっごくいいぜ!」ってことなのだ。


そんなひと言を叫ぶと、太ったおじさんは鼻歌を歌いながら去っていった。


タジキスタン人のおじさんはまだ決心がつかないようだ。
男の子は困ったような顔で父親の荷物をかかえたまま、
洋服の積まれたテーブルの前をうろうろしている。
売り手のおじさんも売れるかどうか気が気じゃない。


私はその結末を見ていたかったのだけど、
主人に急かされてアイスクリームの残りを口にくわえたままその場を離れた。