ぶか~しゅか の ひとり言 (from:モスクワ)

ロシアは日本人にとっては知らないことが多い国。日本の考え方は100パーセント通じない国。でも見かたを変えれば、面白いことも多い国。ロシア人のなかで暮らす日本人の私が、見て感じたロシアをそのままに書いてみたいと思います。

ロシアで籍を入れるのに1年近くかかったこと・・・その6

いよいよ2月2日の結婚登録の日。

私は前日に自分で髪を短く切った。

結婚登録を意識しすぎたせいか、後ろのほうが跳ね上がってしまっていたが、

ま、これもひとつのファッションと思ってその跳ね上がった髪に合うような服装を選んだ。

 

朝は早く起きなくてすむように、登録時刻は夕方の4時を予約していた。

 

この日の気温はマイナス28度。

年が明けて寒さはさらに厳しくなり、

凍傷にならないよう手袋を2重にして、マフラーは首と顔半分に巻いた。

コートはひざを隠さないと凍えて歩けなくなるから、ひざ下のダウンコート。

ズボンの下には厚いタイツを2枚重ねてはいた。

 

結婚登録を実際に行う建物は、書類を申請した建物の隣にあった。

この結婚登録所は、特別国際結婚のための登録所ということで、

他の一般の結婚登録所と比べて豪華なつくりになっていると彼が話していた。

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入り口で予約時間の確認をすると、

私たちのそばに居たカメラマンが写真を撮り始めた。

 

私の彼はソ連時代を経験しているからなのか、

そのカメラマンのことを

「フェー・エス・ベー(国家保安警察)が各カップルを調べるために写真を撮っているのだろう」

と私にそっと耳うちした。

 

「まっさか~」

と私は心の中で思ったが、わけのわからないロシアのことだから、

そんなこともあるのかな~と思って、

国家保安警察に残る写真なら、

いい顔を撮ってもらおうと表情を工夫しながら名前が呼ばれるのを待っていた。

 

そして、いよいよ私たち2人の名前が呼ばれた。

 

部屋に入ると、昨年申請を受け入れてくれた感じの良い女性が笑顔で私たちを迎えてくれた。

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結婚登録の時ぐらい気持ちよくサインしたいものだ。

とずっと思っていたから、

その感じの良い登録官を見たときから

私の気持ちはかなり軽くなり、弾んでいた。

 

写真を撮っていたカメラマンは部屋に入るとビデオを手にして撮りだした。

そうなると

急に私は緊張してしてしまい、

結婚登録書類にサインするために下を向くと、

なぜか鼻水がたらたらと出てきて辛かった。

 

2人でサインを済ませると、

結婚登録官が彼に尋ねた。

「隣のホールで式を挙げますか?」

彼は、

「式は、私たちには必ずしも必要ではないので・・・」

と答えると、登録官の女性は残念そうな顔を私のほうへ向けた。

多分、女性である私の気持ちを思いやってくれたのだと思う。

 

あの頃の私たちには余分なお金はまったくなかったから、

結婚式など考えてもいなかった。

 

私は鼻をすすりながら顔を上げ、

「私たちに式は必要ありません。」

とはっきり言い切って、登録官の女性にお礼を言った。

 

登録官からはお祝いの言葉を受け、

私たちの結婚証明書を受け取った。

この瞬間に私の初めての結婚が成立したのだ。

 

と、夫になった彼の顔をまじまじと見つめたことを覚えている。

 

そして、私が思っていた通り、

カメラとビデオを撮っていたのは国家保安警察ではなかった。

結婚登録所の入り口で即行に作り上げ売りつけられたビデオとCDは、

私たちを撮ったものだった。

そこには緊張した彼の顔と姿、

短い髪の後ろが立っていて、

鼻水をシュンシュンとすする私が書類にサインしている姿がうつっていた。

式を挙げない代わりにそのビデオとCDを記念に買って、

私たちは外へ出た。

マイナス28度の寒さはやはり厳しく、ほてっていたはずの顔が痛たんだ。

 

帰り道、家のそばのちょっと高いカフェへ寄り、2人で珈琲で乾杯した。

ずいぶん長くかかった結婚登録だったけれど、

それもいまはいい思い出になっている。

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