ぶか~しゅか の ひとり言 (from:モスクワ)

ロシアは日本人にとっては知らないことが多い国。日本の考え方は100パーセント通じない国。でも見かたを変えれば、面白いことも多い国。ロシア人のなかで暮らす日本人の私が、見て感じたロシアをそのままに書いてみたいと思います。

地下鉄での思い出

モスクワの地下鉄の車両は、

日本のそれと比べると、

ごつくて、鉄でできた戦車のようなイメージを受ける。

 

天井の高いホームにゴーッという音を響かせて入ってくる地下鉄の車両は、

灰色の分厚い鉄のワゴンだ。

その扉がガタンッと開いて、

ババーンッと勢いよく閉まるまでに何秒の間があるのか、

私はそれをいつもはかろうと思いながら、十数年間できずにいる。

 

なぜかというと、

扉が開いてババーンッと閉まるまでに 

急いで車内へ入らないと、扉に挟まれて怪我をしそうで怖いからなのだ。

 

それでも1度だけ、その扉に挟まれそうになったことがある。

 

仕事に遅れそうになって、開いていた扉の車内へ飛び込もうとした。

とたん、

重い鉄の扉がグワッと動いた。

 

おもわず目をつぶって、身体を硬くした。

 

あれっ?

 

扉が当った感触がない。

 

目を開けると、

車内の両脇に立っていた屈強な男性2人が

閉まろうとする扉をガシッと押さえている。

 

ひゃ~素敵! 感激!

 

あの時はいっぺんに2人の男性に恋してしまったような気持ちになった。

 

扉を押さえている2人の男性は何も言わず、早く中へ入るよう目で合図をしている。

私が中へ入ると2人は押さえていた扉の手を離した。

 

ババーンッ!!!

 

続いて車内に機嫌の悪そうな男性の声でアナウンスが流れた。

 

「扉を押さえるな!扉が壊れる!」

 

私は感激しながらその2人の男性に軽く頭を下げてお礼を言った。

「スパシーバ。スパシーバ。(ありがとう。)」

 

2人とも、赤い顔をして私のほうを見ようとはせず、

まっすぐに前を向いたまま、

何も言わずに立っていた。

 

私は、両方の男性の顔をちらちら見ながら、

いまさっきあったことを思い出して、

幸せな顔をして立っていた。

ファンタジー映画の中に出てくる

屈強な騎士に助けられたお姫様のような気持ちだった。

 

今思い出しても笑みがこぼれる。