空回り
モスクワ郊外の町へ車で買い物に行ったときのことだ。
車を駐車するところがなくて探し回っていたとき、
あるスーパーの駐車場へ寄ったらやっぱり場所がない。
困って周りを見回していたら、
おじさんが近づいてきて、
「これから駐車場を離れるからあそこに車を止めるといい。」
と、自分の車が止まっているところを指差して場所を空けてくれた。
ロシアで! こんな親切を受けるとは思ってもいなかった。
そして空けてくれた場所へ私たちが車を移動しようとしたときだ。
横から急に1台の車が入ってきて、私たちの移動しようとしていた場所を横取りした!
あ~ぁ、やっぱりな~ ロシアだわ!
運転していた主人は、
「仕方ない。まぁ、いいよ。」
と、あっさり引き下がろうとした。
私は、
こんなめったにない親切を受けたことを無駄にしたくはなかった。
主人が止めるのも聞かず、私は外へ飛び出して叫んだ。
「ちょっと!私たちがここへ入ろうとしているのを見ていたでしょ!どうして横取りするの!」
かなりカ~~~っとなって言ってしまったが・・・
車からはいったいどんな人が降りてくるだろうと、
私は内心ドキドキしていた。
強面の男だったら・・・殴られないように少し離れていよう。
スキャンダラスな女の方が、ロシアは怖い・・・かも。
そんな思いが頭をよぎった。
だが、
降りてきたのは中年の太ったおじちゃん。
「1分だけだよ。」
なんて、笑いながら隣のお店のショーウインドーを覗きに行った。
私は仁王立ちになって、
「ほんとうか?」
という顔で両腕を腰に当てておじちゃんの様子をじっと見ていた。
おじちゃんが言ったとおり、
本当に1分もかからずに戻ってくると、
「これで終わりだよ。すぐに場所を空けるから。」
と言って、また車に乗って行ってしまった。
私は覚悟していた気持ちにちょっと穴が開いたようになった。
いままで頭に描いていたロシアとまったく違ったロシアを見たようで、
気が抜けてしまった。
いや、
それとも私があまりにロシアに毒されて過激になってしまっていたのだろうか・・・。
「あのおやじ、入ってくるとき手を振りながらちょっとだけって合図してたよ。」
そう言って、主人は笑いながら車を駐車場に入れた。
それ、それを早く言いなさいよっ!
まったくの空回り。 私の気の強さだけが目だってしまった出来事だった。
帰りに駅のホームで電車を待っていたコーカサス系の恐ろしげなおじちゃんを隠し撮りした。
ロシアにはいつだってこうゆうおじちゃんがいる。