楓の木
モスクワ郊外の家の庭に長年生えていた楓の木が
納屋を潰しそうになっているので伐ることになった。
この楓はすでに80年以上納屋の横に存在している。
枝を四方に伸ばし、高く高く伸びていて、
東向きの窓から入る朝日をこの楓が上手くさえぎってくれていたから、
私にはとても残念なことだった。
主人とこの家に住む主人の叔母さん、ベラおばあちゃんは、
専門家に電話をし、日本円で3万円ほどで木を伐ってもらうことにした。
木を伐る専門家というのは、アルピニストが副業としてやっていることが多いそうだ。
やって来たのは2人の若者。
1人は短パン姿で青い目の典型的なロシア人サーシャ。
もう一人は長い髪を後ろに結んで穏やかそうな笑みを浮かべたアルカーディ。
サーシャは山で救助の仕事を。
アルカーディは木を伐ることを専門にしていると話していた。
2人はまず楓の木の枝を伐り、幹を切り、伐った幹を切り刻んで納屋の横に積んだ。
その仕事はお昼から夜の7時までかかり、楓の大木は切り刻まれて小さくなった。
ロシアとは思えないような丁寧な仕事で、サーシャもアルカーディもとても感じの良い若者だった。
後で聞いたら、ベラおばあちゃんが電話で仕事を頼んだとき、
値段が高いと言ったら即座に6千円の値引きをしてくれたそうだ。
私は切り刻まれた幹の1つを庭に置いて、私専用の椅子にすることにした。
もうすぐ秋が来る。
そうしたらこの椅子に座って、庭の木々が黄色になっていくのを眺めることにしよう。