ぶか~しゅか の ひとり言 (from:モスクワ)

ロシアは日本人にとっては知らないことが多い国。日本の考え方は100パーセント通じない国。でも見かたを変えれば、面白いことも多い国。ロシア人のなかで暮らす日本人の私が、見て感じたロシアをそのままに書いてみたいと思います。

ある日の出来事

夕方買い物に出かけるとき、
マンションの前の駐車場に止めてあるうちの車のタイヤを
道路工事のおじさんが、私の目の前でおもいっきり蹴飛ばした。


なっなんで?


おじさんはコーカサス系の強面で、腕にいっぱいの刺青をしている。
私は言葉が出なくて、おじさんのことを見ながら目の表情で訴えた。


なんで車を蹴るの?


おじさんは、私に気づいて仁王立ちになり、私をじっと見ている。


・・・主人は仕事に出かけたばかりだし。
・・・文句言って因縁つけられても怖いし。
・・・保険に入っているし、
先日ドアを少し傷つけたばかりだから、
おじさんのせいでまた傷ついたら保険で直してもらおうか。


などと思いながら、そのまま歩いて買い物に出かけ、
家に戻ってからその事を主人に電話で話した。


主人は、
「何ですぐに理由を訊かないの?訊いてきなさい。」
と苛ついた様子。


私は意を決して工事のおじさんたちが集まっている駐車場へ
また行くことにした。


駐車場には5〜6人の工事のおじさんたちが集まっており、
どの人も刺青だらけで恐ろしい。
心臓がバクバクしたけれど、私は車を蹴っていたおじさんに近寄って訊いた。


「すみません。何で車を蹴ったんですか?」
おじさん:
「何でって、 駐車場のアスファルトを新しくするために車が邪魔なんだよ。
早くどかして欲しいから警報器がなるように蹴ったのさ。」


と言う。


ロシアでは、車に警報器を付ける人が多い。
傷をつけられたり、車の部品を盗まれることが多いからだ。


ロシアでは、車庫がなくても車を持つことができる。
車道のわきには車がいっぱい止められている。
付けられた警報器は夜中でも、
ワ〜ンワンワンワンワン!ビ〜ビビビビビ!ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜ベッベッベッ!
と一度鳴り出したらなかなかとまらない。


うちの車は警報器より固定キーを付けていて、部品は盗まれても車自体を
持ち去られないようにしている。
だからいくら蹴られても警報器は鳴らないのだ。


私:「すみません。主人が仕事から戻らないと車は動かせないんです。
あと1時間ぐらい待てますか?」
と困ったように言うと、おじさんの表情が急に崩れた。


「そうか。いいよいいよ。旦那が戻ってきたらでいいよ。あんた、他の止まっている車の持ち主知らないか?」
と少しやわらかい口調で聞き返された。


うちの車の他に、4台が駐車場に止められている。


残念ながら私はどの家の車か知らないので、そのまま家へ戻った。


このような工事をする場合、工事を行う業者の責任者が、
前もってマンションに張り紙をしなくてはいけないはずだが・・・。


ロシアでは、思いがけないときに思いがけない工事があって、
水が止まり、エレベーターがとまり、と毎日のように何かしら事が起きる。


その日、主人は45分後に家へ戻り、車をどかした。
他の車をどかすのには夜までかかったため、
おじさんたちは真夜中に工事をすることになった。


翌日の夕方には車を駐車場に止めることができ、
翌々日の朝、主人と外へ出ると、
あの強面のおじさんが駐車場を点検していた。


主人が、
「おはよう!車をどけなくてもいいかな。」
と訊くと、
おじさんはニカッと笑って肩をゆらしていた。
「冗談言うなよ。」ってことだろう。


夏になると、モスクワでは道路工事が頻繁に行われる。